「本物」の浮世絵?

 

本物の浮世絵とは?

ヤフオクなどで、「本物の浮世絵」との触れ込みで出品されている作品が多数あります。しかし、実は「本物」の浮世絵という言葉は、殆ど意味がありません。以下を、一読して頂ければ理解してできると思います。

絵画:世界に一点しかなく、画家の署名があります。「本物」はただ一つで、それ以外は全て贋作になります。

版画:一定数印刷し、作家はそれぞれには署名します。これにより希少価値が担保されます。しかし、原版が破壊されずに保存されている場合があり、その場合、いくらでも同じ作品を印刷することが可能になります。そのため、版画に関しては、「オリジナル以外」が出回るリスクが存在します。

浮世絵:一方、浮世絵では、以下のような複数の種類が存在します。

オリジナルの浮世絵

浮世絵は版画で、初版(初摺)で平均200部が刷られていました。

売れ行きの良い人気作品の場合には、さらに追加で刷られます。時には数千部に達することもありました。それらを後摺(増刷)と呼びます。また、現代版画とは異なり、当時、シリアル番号はつけられていませんでした。また、直筆サインもありません。さらには、初版と後摺を区別する目印も付けられていません。

後摺の枚数は、人気(需要)により異なりますが、少なくとも初版の枚数程度は刷られています。ここで重要なこととして、初版と後刷では、作品が異なる場合があるということです。

初版は、絵師が色指定を含めて、細かい指示を行います。しかし、後摺は必ずしもそうではなく、刷元が独自に実施するのが一般的でした。そのため、色目が異なったり、初版の購読者からのフィードバックを踏まえて、画中の人を増やしたりすることもありました(例:安藤広重の有名な日本橋の浮世絵)。実際、後摺が初版より人気となることもありました。

また、後摺が実施されるタイミングにも様々で、初版とほぼ同時期の場合もあれば、版木が残っている場合には、明治や大正に実施されたものもあります。

なお、戦争の空襲で殆どの版木は焼失したため、昭和以降には原則として、オリジナルの版木を使用した後摺品はありません。

初版と後摺では、その経済的な価値に大きな差があります。ある初摺作品の価値を100万円と仮定した場合、後摺は10-20万円、すなわち1/5 – 1/10程度の評価です。

なお、美術館に現存するものは、必ずしも初摺品だけではなく、むしろ沢山の後摺作品もあります。そして、復刻版もあります。このことに関しては、浮世絵ラボラトリーで事例を紹介します。

復刻版

「オリジナル」に似せて、新しく版木を作成して印刷したものを、「復刻版」と呼びます。

発行時期は、明治、大正、昭和、さらには平成までさまざまです。明治時代に販売された復刻版は、稀少価値が生まれてきています。明治時代に限定していることには理由があります。それは、昭和や平成の作品は骨董品ではなく、レトロ作品または中古品に分類されるからです。

どのくらい古いものが骨董品とされるかの明確な定義は、1934年にアメリカ合衆国で制定された通商関税法に記された製造された時点から100年を経過した手工芸品・工芸品・美術品が唯一であり、欧米各国におけるアンティーク(骨董品)の定義もおおむねこれに従っています。なお、この定義はWTOでも採用されており、加盟国間においては100年前に製造されたことが証明された物品に対しては、関税はかからないとされている。

ジクレー印刷

最後に、最新の印刷技術を使用したジクレー印刷があります。それらは「浮世絵」ではなくポスターで、蒐集対象にはなりません。

贋作の多い絵師

ダントツは、歌川広重です。歌川広重は東海道五十三次の爆発的な人気により、江戸時代でも人気の流行絵師となり、当時から彼の贋作(復刻版)が多数作れられました。その後、明治、大正、昭和にかけても状況は同じです。保永堂版と言われているものは殆どがニセモノです。小生も初摺として購入したが、違ったということはよくあります。後摺ならば、まだ我慢できますが、復刻版ならばお金を捨てたようなもので、悔しい思いは何回もしています。そのため、可能な限り、実物を手にとって確認するようにしています。

次に多いのが北斎と歌麿です。これらの絵師は海外で人気があり、贋作は昭和以降が多いです。広重同様、市場に出回っている作品の殆どは贋作です。

最後に国芳に関してですが、彼が注目を集めるようになったのは、過去20年ほどのため、贋作はそれほど多くはありません。マイナーな作品は本物と思って大丈夫です。しかし、一部の有名作品に関しては、国芳人気にあやかって、贋作が出回っています。

まとめ

以上を踏まえるならば、浮世絵では、絵画の世界におけるような白黒(0, 1)といった絶対的な「真贋」判定は馴染まなく、価値判断は相対的になります(グレイゾーンの幅が広い)。

浮世絵の相対価値

蒐集価値の高い浮世絵
初摺:江戸時代、一部は明治時代。
後摺:江戸時代、一部は明治時代。初摺の1/5 – 1/10の経済価値。木版は戦争で焼失しているため、今後、「後摺」されることはない。
蒐集価値の低い浮世絵
復刻版A:明治時代までに作成された作品。骨董100年前の定義にあてはまるが、市場での取引価格は、最大でも数万円)
復刻版B:昭和以降の作品。アンティークの定義に当てはまらず、流通量も多い。また、木版が残っているために「増刷」されるリスクがある。
蒐集価値のない作品または消耗品
ジクレーなどの最新技術を用いたコピー品