浮世絵の見分け方のポイント

浮世絵の標準的な評価項目

これまでの浮世絵の評価は、一部の専門家 / 研究者あるいは専門店の目利きの世界でした。以下においては、特に初摺と後摺、そして復刻版の見分け方を紹介します。

  • 和紙の厚さ:江戸時代の紙は薄く、明治時代以降は厚くなっています。紙の厚さは、デジタルマイクロメーターを用いて、客観的な数値で評価が可能です。
  • 蛍光染料の使用の有無:紫外線を照射することで、戦後の紙を使用しているかどうかが分かります。蛍光増白剤が使用されている場合には、400nmの光で、強い蛍光を発します。
  • 画像比較:美術館所蔵作品や成書の作品を、コンピューターソフトウエアを用いて比較します。画像(輪郭等)が完全にマッチングしたならば、版木が同一の可能性が高くなります。しかし、初摺 vs. 後摺に関しては、この方法では判断できません。実際、上述したように、有名美術館の収蔵作品であっても、様々なバージョンが蒐集されています(すなわち、初摺、異なるバージョンの後摺、場合によっては復刻版)。色に関しては、ネット上または成書で入手可能な作品の画像が、本当の色を反映しているわけではないため(例:コントラストを高めるために、加工されたり、バックライトを当てているものが多々あり)、残念ながら、参考程度にしかなりません。
  • 全体の時代感(汚れ、スレ、穴あき、欠け等):これは主観的判断になります。初摺でも状態のよい、無傷の作品もあります。
  • 販売店の知名度:殆ど当てになりません。有名店が明らかな復刻版を、その旨を記載せず、「本物 浮世絵」というタイトルを用いて、あたかもオリジナルであるかのように、販売している事例を多数承知しています。

初摺 vs. 後摺の違い

骨董店やギャラリーが、初摺と後摺を記載して販売することは殆どありません。これには複数の理由があります。a. 初摺は現存数が少なく、有名作品の場合には大部分が後摺のため(後摺と明記すると、顧客の購入意欲が低下する可能性大)、商売に影響がある。b. 初摺と後摺を明確に分別する能力を必ずしも有していない。c. 初摺と後摺を明確に説明することは、かなり手間暇のかかる作業のため、割に合わない。

その結果、歌川広重のように江戸時代から大人気の絵師の作品の場合、市場に流通している作品の大部分は後摺または復刻版です。「保永堂版」と記載されている作品の殆どは、巧妙にカモフラージュされた復刻版(偽物)です。これに関しては、事例を紹介させて頂きます。

以下の初摺と後摺を区別するポイントを示します。

  1. 白抜き:浮世絵は木の版木を使用するため、印刷工程で収縮が生じます。その結果、後摺では木の収縮により、「白抜き」とわれる、色が刷られない部分が、輪郭線沿いに生じる傾向があります。
  2. 輪郭のシャープさ:上記と同様に、版木が木のため、印刷が進むにつれて、木がすり減り、シャープさが失われてきます。そのため、最も価値ある浮世絵は、初摺でも初期印刷品です。なお、後摺の途中で、木がダメになり、部分的に彫り直すことがあります。
  3. キラ摺り:有名絵師の力の入った作品の場合、キラと呼ばれる雲母を使用して、輝きを引き出します。後摺は費用対効果が重視されるため、このような手の混んだ摺りはしません。
  4. グラデーション:グラデーションも手がかかるため、後摺では手抜きになる傾向があります。
  5. 全体の色調:後摺では、ほぼ例外なく暗くなります。
  6. 改印の有無:改印があるバージョンとないバージョンが混在している場合、改印がない浮世絵は、ほぼ間違いなく後摺です。一方、初摺でも改印がない場合もあります。そのような場合には、改印の有無で判断することはできません。

初摺を見分ける決定的な方法

初摺を見分ける決定的な方法は、上述した、初摺作品と輪郭を比較させて、2つの作品が合致するかどうかを評価することです。最初のステップとして、「初摺」作品を同定する必要があります。一部の有名作品は、初摺作品が判明していますが、それが不明な場合には、美術館収蔵作品のうち、どれが初摺であるかを判断する必要があります。その基準として、上述した6ポイントが役に立ちます。

画像比較は、「浮世絵ラボラトリーズ」に詳細および事例を紹介していますので、そちらを参考にして下さい。